漫画「スーパーカブ」は相棒との出会いから始まる日常の変化の物語だ!
まえがき:スーパーカブとは?
みなさん、スーパーカブは知っておられるかと思います。
ホンダから販売されている、ロングセラー作品の原動機付自転車。
ラインナップは50cc、90cc、110cc。
もう少し小さめのリトルカブもあります。
もともとは自転車の後輪にガソリンエンジンをつけた「カブ」から始まった。
1958年に現在のスーパーカブの姿として販売され、60年目に突入している。
新聞屋、蕎麦屋、郵便などさまざまなところで使われるだけあって高い信頼性のあるバイクである。
遠心クラッチを使用したリターン式変速機もその特徴の一つだ。
ここで話しているよりも詳しいことはこのWikipediaを読んでください。
書籍紹介
今回、自分が紹介するのは蟹丹さんがイラストを務める「スーパーカブ」というマンガです。トネ・コーケンさんの小説が原作です。
原作は現在、3巻まで発行されていますので、興味があったら是非そちらもどうぞ。
スーパーカブ(1)【電子書籍】[ 蟹丹 ]
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本屋では、バイクコーナーなどに一緒に置いてあることが多いです。
主人公、めっちゃ冷静!
あらすじ
舞台は山梨県の高校。主人公の「小熊」は両親もいない、友達もいない、趣味もない女子高生。相棒のスーパーカブを手に入れた彼女はそこから世界が変わっていく。
この小熊という子、だいぶ家庭環境がハードです。
父親は事故死、母親は蒸発、親戚はいない。もはや、周囲の助けという意味ではVERY HARD超えてINFERNO。
「Bye」じゃねえよ! 高校生の娘置いて書き置きだけして蒸発とかなんなんだよ!というツッコミがまず入りました。
小熊も小熊で、めっちゃ冷静なメンタルしていて相談する場所へまっさきにかけこむ判断力がある。
少し、脱線するので「生活補助」の項目を読みたくない人は飛ばしても結構です
ちょっと脱線:生活補助を受けることのハードルについて
意外とスルーされがちになる場面なので、ちょっと説明したいと思います。
小熊は完全孤立の状態で市役所かなんかの施設に行ってお金の補助を受け、これから1人で生きていくという判断ができている。これはなにげにすごいことなんです。
普通の高校生ならそんな判断力を持ってないことが多いし、普通はパニックになる。学校とかでもそのような社会福祉の仕組みをまともに教えないんですよ。だから、この行動ができること自体がかなりすごいことなんですよ。
みなさん、ホームレスになる人が出てくる理由ってご存知でしょうか。
それはおおまかに3つ。
などのパターンがある。
知的障害を持つ当事者の場合、より社会の福祉の網目から零れ落ちる可能性が高くなります。
理由としては、市役所で手続きの意味を説明されても理解できない。書類を書くために必要な事項が分からない。知能水準のせいで就職先を探すことも難しいからである。
今回のようなケースだと、近隣住民、学校から様子のおかしさや服装の乱れがひどくなったことから指摘されてしかるべき機関に連絡がいくパターンが多いと思う。しかし、小熊はその手続きをすべて1人でこなしているあたり生半可なメンタルを持っているわけではなさそうだ。
この子、マジで中身16歳っすか?ってレベルで対応力・順応力が異常に高い。
おそらく、今までの家庭環境がINFERNOすぎてそんなことくらい日常茶飯事だったので今回の事態にも冷静に対応できたのではないかと思う。(あくまで推測だけど)
参考としてNPO法人のリンクを張っておきます。これはなかなか分かりやすいです。
→ホームレスって? – 特定非営利活動法人 TENOHASI
きっかけは1つの上り坂から始まった
はい、本題へ戻りますね。
スーパーカブを手に入れるまでは自転車で通学していた小熊。
自分の横を通る原付を見て「原付があればいいのにな」と思い、購入へ。
高校へは奨学金で通っているため、お金はあまりない。
(最初は15万9000円のホンダ ジョルノを見ていたが価格で断念)
そこで、店主が中古のスーパーカブを1万円で売るということを提示。
いわくつきのカブだが、それを購入したときから小熊の人生は広がっていくのだ。
こういう話を聞くたびに、自分が最初に購入した中古車の話を思い出す。
少し余談:私の最初の相棒について
納車日は忘れもしない大学4年生のときの1月14日。
自分の場合は車なので若干毛色は違うが共通点は多い。
最初に購入したのはコミコミ13万円のアルトだ。
平成7年式、オーディオはカセットテープ、窓はクルクル、エアバッグはない。
そして4速MTというザ・下道仕様。
今までは徒歩・自転車・電車・バスという交通手段しかなかったところに自動車(バイクでも可)という選択肢が入ってくるというのは大きな違いだ。
見た目はボロボロでも荷物を詰んだり、移動範囲が広がるのはとても楽しい。
だんだん愛着がわいてきて相棒のように接していく。
洗車、オイル交換などメンテナンスは欠かさない。ボロいのでいつ壊れるか分からないからだ。こまめに整備してもダメな時はダメだった。
道中で冷却水が全部漏れてオーバーヒート。運転席のドアを閉めたら助手席のロックレバーがバキン!と折れたこともあった。
そんなポンコツでも4年間の貧乏生活にはだいぶ大きな助けとなってくれた。燃費もリッター18くらいを安定して出してくれていたので燃料代もすごく安かった。
こういった経験をもっているとこの漫画にすごく共感できるのですよ。
カブで友達ができたよ!
クラスでは完全に孤立状態の小熊。家庭科の授業でヘルメットを入れるための袋を作る際に、布を各自取ることになった。
小熊はヘルメットを入れたいので大きめの布を取ったところ、クラスメイトに「夜逃げでもするの?」と言われるがスルーして「バイクのヘルメットとグローブを入れる袋を作りたい」と答える。
「へぇ、バイクは何に乗ってるの?」と聞かれ、「中古のスーパーカブ」とこたえるとクラスメイトは興味なさげに去っていった。
ただし、1人を除いて。
それがこの巨乳でお金持ちのお嬢様の礼子。
父は市議会議員、母は社長、本人は超優秀というドテンプレな展開ではあるが、カブのことに関してはめちゃくちゃオタク。
小熊とはまったく境遇が違うが、カブ仲間としてどんどん仲を深めあっていくという要素がなかなか面白いのですよ。
そんな彼女の相棒はホンダ MD90。
なんだ、カブじゃねえのかよ・・と思った皆さん。
MD90は郵政カブの90ccというとんでもなくマニアックなものなのです。
簡単に言うと、「一般人には新車で絶対に売ってくれない郵政公社専用モデル」なんです。一般のカブとは違い、エンジン、フレーム、サスペンションすべて1から専用設計した商売道具用ワンオフモデルなのです。
そして、郵政仕様なので色は真っ赤。
どこかにいましたね、そんな某ロボットアニメの敵役が。
彼女は郵政カブを中古で手に入れ、かつカスタムしているという結構ヤバいレベルのカブオタクなのである。
ちなみに、普通免許では乗れないので小型二輪免許(AT限定でも可)を取る必要があります。
参考までに、郵政カブについてのお話をしているサイトがありますので載せておきます。→最強カブ伝説?郵政カブってどこで買うの? - NAVER まとめ
4輪車ではスバル サンバートラックの赤帽仕様が該当しますね。
今回は関係ない上に長くなるので、説明を割愛します。
原作者、トネ・コーケンさんの寄稿小説が秀逸!
この本の最後には原作者のトネ・コーケンさんが特別に寄稿してくださった小説がついており、カブに限らずバイクに乗って生活する上での注意点などを細かく書いてくれてある。盗難されるリスク、バイクを乗る上でかかる諸経費などなかなか勉強になることが書いてある。
漫画だけではどうしても描ききれない制約がある部分を補完してくれるのでセットで読むとより理解が深まる。
自分はバイク乗りではないので知らないことが多く、非常に勉強になった。
あとがき
スーパーカブという相棒と一緒に暮らすというテーマは一般的に言うと「渋いジャンル」に該当するものだとは思う。
この物語を車に変換すると「中古の軽トラ(軽商用バン)を購入した僕の日常」というような感じになるのは分かっていただけるだろうか。
それをかわいいイラストで魅せることにより、非常にマイルドな仕上がりとなっている。
スーパーカブは仕事用に使われることが多く、決して女子的にオシャレなバイクではない。また、スポーツバイク独特の速さや楽しさがあるというジャンルでもない。
むしろ、扱いとしては「地味」だ。
でも、その平凡さ・渋さが生活をする上での深いダシとなって物語に抽出されているのだ。ダシのきいた味噌汁は料理として派手さはないが、日々の生活に密着しておりこれが欠かせないという重要なポジションを得ている。
小熊は物語の中でもあまり目立つことを好む性格ではない。
そんな彼女にとって、スーパーカブというバイクはかなりピッタリなのではないだろうか。目立たないけど、とても芯が強い。彼女そのものの生きざまだ。
そして、雰囲気は小熊とは対照的にかなり目立つお嬢様でありながら、渋いカブの魅力に取りつかれた礼子。
その旨味の強いダシを本気で気に入り、「郵政カブ」というプロの道具を本気で自分の足にしている。本質をよく見極めたうえで選んだんだなということを感じた。
通常から考えれば、あのクラスのお嬢様ならもっとよい価格帯・スペックのバイクをポンと購入していてもおかしくはないだろう。ご両親も普通に買ってくれそうな家庭ではある。でも、あえての商用バイクを選んだ理由があったわけだ。
明言されてはいないが、小熊の心の芯の強さを礼子は感じていたからこそ友達になろうと近づいたのではないかと自分は感じている。
車やバイクが好きな方だけでなく、1人の女の子の日常をまったり読みたいなという方にもかなりお勧めできる本だと思います。