緑青はなぜ猛毒と思われているのか?
緑青の話をすることになったきっかけ
単刀直入に言えば、「やらかしたから」ですね。
自分は思いっきりTwitterで「緑青は猛毒だ!」とか喚いていました。ちょっと興味が出たので緑青のことに調べてみたらLD50の値が大したことがなくて泣きそうになりました。なので、もう一度出直そうと思い、この記事を書いています。
実際問題、緑青のせいで死んだという事件を自分は聞いたことがない。
緑青とはなんぞや?
緑青は銅が酸化するとできる青い錆のこと。
銅でできている物質が湿気ている場所で二酸化炭素にずっと触れていると次のような反応が起こって発生する。水分に二酸化炭素が少しとけ、酸性よりになることで反応が進む。
2Cu + O2 + CO2 + H2O → CuCO3・Cu(OH)2
具体的な例としては以下のようなものがある。
よく10円玉とかにできる緑青の正式名は「塩基性炭酸銅(Ⅱ)」という。
炭酸銅(Ⅱ)と水酸化銅(Ⅱ)が1:1の組成で組み合わさった結晶だ。なので、表記にドットが入っているのは誤植でもなんでもないのでご安心いただきたい。
ただ、緑青は塩基性炭酸銅だけでなく他の酸化物なども含まれている。
細かいことが知りたい場合は下のサイトを読んでもらった方がよいと思います。
追記:LD50って何?
ちなみに、LD50というのは「投与した動物の集団の半数が死ぬ摂取量」という指標です。
基本的に値が少なければ毒性が強いものだという認知でいてくれればいいと思います。
緑青のLD50の値はラットの経口摂取で1350mg/kg。
体重1kgあたり1.35g。人間なら10円玉の緑青を意識してムシャムシャ食べようとする変態さんかバカ以外は大丈夫だと思います。
ちなみに経口摂取のLD50の値はここから引用しております。
緑青は、猛毒というには大袈裟すぎる表現をされてきた物質だということが分かると思います。
このあと、化学系の小難しい話をすることになってしまうので「そんなのは嫌いだ!」という方は大見出しの「猛毒だと思われた理由を語るよ!」まで読み飛ばしてもらって結構です。
SDS(製品安全データシート)で緑青を知ろう
化学系にいる方は基本中の基本となりますが、物質を扱う・特性を知るというためにはSDSを読みましょう。その物質の危険性、今回は緑青がどんな物質なのかを知るうえで使っていきたいと思います。
http://www.hpc-j.co.jp/pdf/msds/E3-15.pdf
このURLは林純薬工業株式会社で使われているSDSです。緑青の主成分、塩基性炭酸銅(Ⅱ)の取り扱い方・毒性について書いてあります。
本当のことを言えば、シグマアルドリッチ社のSDSですごくよいものが掲示されていたのですが、現在はリンク切れのため削除いたしました。
本当は残しておいてほしかったのだが、何か不都合があったのかもしれない。
「SDSって何?」と思う方にはこちらのサイトを一読してください。
なお、MSDSという表記になっていますがこれは古い表記なのでご注意を。
猛毒だと思いこまれた理由を語るよ!
新聞で緑青の記事を真面目に読む人は少ない!?
緑青がなぜ世間的に猛毒扱いされてしまったのかをもっと掘り進めていく。
厚生労働省で昭和59年(1984年)8月に「緑青は無害だ」という公式発表をしている。
これは自分が生まれる前の出来事だったため、本当かどうかを確認するため母上に聞いてみた。以下の返答が返ってきた。
「そんなことあったの?私は緑青なんか全然興味ないから知らんかった。緑青は危ないんじゃないの?」
要するに、新聞が公式で出した話は一般レベルでは全然伝わってない!ということが分かりました。
正しい事実が伝わっていないということはつまり、どこかで間違った情報が広まってしまったということになる。そのことについて追及をしていこう。
誤解の原因は理科の教科書だった!
一般社団法人日本銅センターの公式発表の一部を引用しましょうか。
CopperBook:基礎知識 誤解は、教科書から生まれた!?
緑青は有毒。この誤解は、どこから生まれたのでしょうか?調べてみてもその理由ははっきりしません。海外の文献を調べても緑青の毒性を訴えているものはなく、この誤解は日本だけの問題のようです。
ただ、その理由のひとつに学校の教科書の記述に問題があったようです。
戦後の小学校の教科書「五年生の理科/金属のさび」には「銅のさびの一種である緑青には毒性がある」と書かれています。
更に、昭和49年の理科の教科書には、金属のさびという項目があり、緑青について次のように述べられています。「しめり気の多いところに銅を置くと、緑色のさびができる。このさびを緑青といって食べると身体に害がある」と記述されていました。
しかし、どうして害になるのかの記述はありませんし、当時のほとんどの百科辞典も同様の記述をしていました。
「緑青は有毒」の誤解は、これらの記述イメージが強く、長く消えなかったためではないかと考えられています。東京大学医学部衛生学教室の元教授・豊川行平氏は、「緑青のグリーンが毒々しく見えたから、いつのまにか毒だと信じ込んでしまったのではないでしょうか」と語っています。
理科の教育、振り返りましょう
自分が平成10年台の小学校のころ理科の授業とかを振り返って考えてみると「緑青は毒だ」という具体的にそういう話はなかった。
もしかしたら、当時は集中力がなさすぎて授業を聞いていたかどうかも怪しい。
記憶にあるのはおじいさん世代・母親世代が「10円玉の緑のやつは毒だから危ない!」ということだ。それを気にすることもなくこの年まで信じていたのだ。少し調べりゃ、わかったことなのに。
緑青の害が強調された昭和49年の教科書。これを西暦になおすと1974年に発行されたものになる。その当時に学んだ小学5年生は1963年あたりに生まれた人なので、現在その人は52才(2015年の時点)だ。
だが、本当にその知識が間違っていて伝えられているということであればその上の世代の人たちが彼らに「違うよ」とストップをかけるはずなのだ。
しかし、誤解され続けているということは上の世代も同じような教育を受けていると考えるのが妥当だ。その世代は戦後すぐに生まれた層が該当する。
戦後というと、1945年の終戦。
そのときに小学生だった人の世代を大まかに計算すると今の60~70才の世代がちょうど「緑青は危険だ」という教育を受けたことになる。(ギリギリ80代も含まれるのだろうが、戦後のドタバタですぐに授業を移行できるとは思えないので少しマージンをとった結果)
そこから言えることは、団塊の世代からずっと「緑青は猛毒で危ない」という間違った知識が修正されずに60年ほど放置されているということだ。
今の50代~70代の人が教科書で間違った知識を植えつけられたんだなと考えると恐ろしい話だ。
なぜ、この連鎖を止められなかった?
この国はあいにく理科に対して関心が薄い傾向にある。親世代が間違った知識を修正せず、その連鎖を子供世代がそのまま吸収する。
教科書が間違っていることを知っているのは少数の人間だけなのだ。
ちょっとWikipedia見れば「猛毒じゃないよ」と書いてある。
自分はそれでも割と理科が好きなほうだったのだが、緑青に関しては「危ない・猛毒」くらいの雑な感覚だった。
そして、平成に入ってからの書籍をいろいろ読んだのだけど有毒という記述を見つけることはできなかった。ただ、はっきり「無毒」とも書いてなかった。先ほどの引用にも次のようなことが書いてある。
一般の人の最も基本的な知識の媒体となる小学理科教科書については、その制作の基準となる文部省の学習指導要領が昭和46年度に新たに改訂され従来の生活理科から、いくらか科学的な思考の要素を重視する方向に転換してきた面もあって現在では「有毒性」を強調しない内容のものに変更されました。
一方、実際に銅・緑青が害毒を及ぼした事例を調べてみても納得のいく例証には大変乏しいといえます。これには種々の考え方もあると思われますが、おそらくは単に銅が錆びて緑青になるとその色彩が毒々しい感じを与えることがそう信じさせる有力な理由となっていると考えられます。
やはり、自分の集中力がなかったとはいえ小学生時代の記憶が間違っているということはないようだ。そうすると問題は誤認している人が多すぎて、修正しにくいということに尽きる。
だが、それはいくらなんでも難しいし全員に周知できるとは思えないので雑貨店でできることは読んでもらった人には認識してもらうことではないかと思った。
大変有用な記事を見つけたので、シェアをしましょう。
サビの先生が教えてくれた真実
引用元:緑青は毒?
だいぶ強調してさせてもらっている部分が多いが、ご了承いただきたい。
ところで、有名な言語学者の金田一京助先生、金田一春彦先生らの国語辞典で「緑青」を調べると「銅製の器物の表面に生じる緑色、有毒なさび」と説明されている。権威ある国語辞典で、緑青は毒物と説明されている。 (中略)
私の専門分野は金属材料の腐食・防食技術である。そのため、しばしば腐食や錆の講義をする。その際に、受講生に「緑青は毒ですか?」と質問すると、何人かの人が緑青は「毒」と答える。
若い人より、お年をとられた人の方が、緑青は毒と答える割合が多い。小さい子供の頃、親に「銅の硬貨を舐めるな、緑青は毒だから」と教えられた人が、お年寄りには結構いるようである。ところで、緑青は本当に毒なのだろうか?
銅合金に発生した緑青の成分を分析すると、塩基性硫酸銅、塩基性炭酸銅であることが分かる。大気中、あるいは地中の二酸化硫黄成分や炭酸ガス成分と銅が反応して出来た錆である。ところで、これらの化学成分はいずれも毒物ではない。日本伸銅協会は、かなり前になるが、衛生局に緑青のマウス試験を依頼し、緑青が毒物に相当するのかどうか、その真偽を確かめた。その結果、緑青は毒物ではなかった。
では、如何して緑青は毒物と思う人がいるのだろうか? そのことを解く鍵は、歴史的に最も古くから使われてきた銅合金「青銅」の成分を調べれば、そのヒントがつかめる。さて、古い時代順に代表的な青銅の組成を次に示す。
1.古代エジプトの矢尻 銅77% 錫23%
2.ローマの鐘(1200年代) 銅71% 錫27%
3.奈良の大仏 銅93% 錫2% 鉛0.5% 砒素3%
4.鎌倉の大仏 銅71% 錫10% 鉛14%
5.現在の青銅(JIS) 銅(主成分) 錫2~11% 鉛0~6% 亜鉛1~11%
1~5の青銅の成分から分かるように、青銅の成分は、地域や時代によって異なっている。鉱山から採掘される鉱石の違いによって、歴史的な青銅の成分は異なるのであろう。ところで、奈良の大仏の青銅には砒素が3%含まれている。当時山口県に大きな銅鉱山があり、そこから採掘された銅を使って、大仏が作られた。山口県の銅の鉱石には錫や鉛とともに砒素をかなり含んでいた。そのため、山口県にあった銅鉱石から作られた青銅はヒ素を含有することになった。砒素は空気中の酸素と結びつき酸化物を作る。砒素の酸化物はきわめて猛毒であり、わずかの量を含むだけで人は直ちに死ぬ。砒素酸化物と聞くと「和歌山毒物カレー事件」を思い出す人がいるであろう。1998年の地域の夏祭りで、何者かにより砒素の酸化物がカレーに混ぜられ、それを食べた人のうち4人が死亡した。主婦の林真須美が砒素をカレーに混ぜたと言われている。
奈良時代の山口県の鉱山から採掘して、作成された青銅の緑青の表面には、当然、砒素の酸化物が含まれていたと考えることが出来る。このような緑青を口に含めば、当然カレー事件と同じことになる。緑青が毒という話は、砒素を含有する青銅が作られた歴史的な事実であり、その事が長い間、その後も伝えられてきたものと考える。現在の青銅やその他銅合金には砒素が含まれていないので、現在の緑青は毒ではない。
この人、すごい。よくやった!と賞賛したい気分だ。
青色で強調した「金属材料の腐食・防食技術」の専門ということは、いわば錆びのことについては生半可な知識ではないということを証明している。
ヒ素の野郎、てめえのせいで緑青は・・・
「緑青は有害だ!」といわれてしまう真犯人はヒ素だったんですよ。要するに、濡れ衣を着せられていたことになる。林真須美は自分が小学生の頃に大騒ぎになったのでかなり印象に残っている。通常、銅は黄鉄鉱というものから単離することが一般的だ。
当時、採取することになった山口県の黄鉄鉱にはヒ素が含まれており、その銅で作った仏像から緑青が作られた。
そのヒ素入り緑青が体内に入ることで死人が出たという話だが、ヒ素が含まれていない現代にまで誤認されて伝えられてしまっているのが現状だ。
当時は銅を溶かす技術が確立していなかったのでヒ素が入っていると融点が下がるので加工しやすかった。
ちなみに、奈良の大仏は大仏殿の乾燥した場所に保管されているので表面が黒い酸化銅(Ⅱ)に覆われています。たぶん、緑青を作るには水分が足りないんでしょうね。
とにかく10円玉にある緑青は、割と無害な部類の物質だけど口の中に入れると健康被害が一切ないわけではない事を頭の中に入れておいてくださいね。
建造物の緑青、危なくないでしょ?
先輩は家があっていいよな・・・
阿弥陀如来像です。よく、鎌倉の大仏とかって呼ばれています。
以後お見知りおきを。
俺、もともと高徳院に住んでいたんだけどさ。災害でなくなっちゃったんだよね。
だけどさ、俺ってやたらでかいじゃん。普通の家じゃ入れないんだよ。
仕方なくずっとホームレスやっていたらいつの間にかまだらな緑色になっちまったよ。
俺の大先輩にね、東大寺盧舎那仏像って方がいらっしゃるんだけど、めっちゃいい環境で過ごしているんだよ。なんか、「奈良の大仏」って呼ばれているらしいんだけど。
1年に1回、御身拭いという作業で体を綺麗にしてくれるんだってさ。
東大寺ってものすごく乾燥してるから全然緑色にならなくて黒色を維持してるんだって。すごいよね。
あの方、1回平安時代に燃えちゃって、復活した後何回かホームレスになったらしいんだけど、直してくれる人がいたから今東大寺の中で右手の掌を突き出しちゃってるの。
俺なんて2016年に清掃されるまで55年間、誰にも磨かれず雨の中で過ごしていたんだぞ?
でも、このグリーンの体に興味持ってくれる人いるからそれはそれでわるくないんだけど。
なお、こちらの鎌倉の大仏はこちらのサイトより拝借しております。