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書評「中村修二の反乱」 その1

青色LEDの研究では赤崎勇教授、天野浩教授、中村修二教授の3人がノーベル物理学賞を受賞した。だいたい、メディアでは天野教授がかなり強めに報道されることが多く、アメリカで活躍している中村教授は思っているほどピックアップされない。

そこで、自分が興味を持ったのはこの本、「中村修二の反乱」だ。

 

読んでいていいなと思える部分は以下の点だ。

・特許についての細かい話がわかる

・著者の畠山憲司さんが中村教授を取材しているため、第三者視点で楽しめる

・日本の司法・学校教育・会社組織の負の部分をはっきりと映し出している=中村教授の名言集に近い

 

本来なら順番を一番上にしなきゃいけないんだけど、3番目の要素がいいと思えるポイントとしては一番強い。日本はいいところだというのはわかるのだが、それを打ち消すほどの負の側面があるのも事実だ。

 

中村教授が青色LEDを作るための装置(MOCVD装置)を工夫する話はすごい。あんた、どこでその機械加工の技術を手に入れたんだよ!って突っ込みたくなる。

MOCVD装置の構造を簡単にご紹介すると材料の物質を化合させる反応室に、薄膜を成長させる基盤を置く台があり、その台に向かって材料のガスを吹き付けるガス吹き出し口が1つ突き出している。中村は基盤にサファイアを選んでいたので、その台の上にサファイアの基盤を置いて1000℃程度に加熱し、そこにアンモニアと水素に混ぜたガリウムのガスを吹き付ける。すると理論上は、アンモニア中の窒素がガリウムと化合して、サファイア基盤上に窒化ガリウムの結晶薄膜が成長していくはずだった。

(中略)それが、成長しなかったのだ。中村は三ヶ月の試行錯誤の末、その理由について仮説を立ててみた。結晶薄膜が成長しないのは、サファイア基盤から出る熱対流によって、材料物質のガスが吹き飛ばされるせいではないだろうか?材料となるガスが基盤に接触していなければ、薄膜が成長しないのは当然なのだ。

 自分の専門は化学(バイオより)を若干やっているくらいなので、最初はよく意味がわからなかったが、よくよく考えたらこのサファイア基盤を採用している理由は赤崎教授と天野教授のサファイア基盤の研究結果だと気づいた。トリメチルガリウムというガリウムにメチル基が3つついたガスをガリウム源として使っている。(元素単体では沸点が高すぎて論外)

MOCVDではどうやら、1000℃という温度はかなり高いらしい。(相場としては700℃くらい)そうすると、ほかの反応で起こる熱対流よりもおおきな対流が起きるのはエネルギーが高いから当然の話で、熱がほかのところに伝わるスピードも速くなる。これが実現を邪魔している理由だった。

その熱い邪魔なガスを不活性ガスで押さえつけて本来つくべき原料のガスを付くようにしたのがツーフローMOCVDの原理だ。ガスでガスを押さえつけるという発想ってなかなか思いつくものじゃないなと思うよ。よくRPGやデジモンのアニメとかで氷の息と炎の息を吐き合ってエネルギーが拮抗している場面があるが、あんな感じを思い浮かべてくれれば想像は付くのではないか。

 

しかも、その装置の作り方は業者に頼むんじゃなくて、旋盤や溶接などを活用し、きったはったで自作している。旋盤を使っている様子を見たことがあるが、あれを熟練するまでには相当な年月がほしいなあと思うんですよ。まぁ、本当のプロには劣るのかもしれないけど研究の傍らにこの技術を実用レベルにまでできてしまうのがすごい。

溶接なんて下手な人だと、つけるはずの材料に穴を開けちゃったりして強度を弱くするのでそんなレベルならやらないほうがいい場合があるくらいだという。例えるなら、博士号を持った岡野雅行さんみたいな人だ。

 

たぶんさ、他の人なら業者待ちで「あ~はやくこないかな~・・・」とか言ってる気がする。だいたいは時間がないし、クオリティ重視するからコストかけてでもやっちゃうだろうけどね。工夫して面白いものを作れるようなベースの教育って、日本でされていないなぁと感じさせる本だった。もちろん、創造技術がある人ばかりじゃないのでこの感覚と言い回しはものすごく乱暴なんだろうけど、考え方のベースをゼロから作るという点ではやっぱり最悪だ。

実務系の秀才は売り上げと数字を追うことは得意だったりする。でも、ブレイクスルーみたいな感じを持っているか?というと微妙な気はする。

まぁ、今回はその1として「すごい」と思ったところの概要を書いていった。

その2では気に入った中村教授の名言集を並べていきたい。